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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)968号 判決 1983年1月27日

(原審昭和五三年(ワ)第一一四一〇号事件(以下、「第一事件」という。)原告、昭和五四年(ワ)第七三四二号事件(以下、「第二事件」という。)被告)

控訴人

後藤照美

(原審第二事件被告)

控訴人

後藤庸輔

右両名訴訟代理人

石原英昭

石原豊昭

(原審第一事件被告、第二事件原告)

田中幸夫こと

被控訴人

金仁玉

右訴訟代理人

大隅乙郎

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「一、原判決中控訴人ら勝訴部分(主文第三項)を除きこれを取り消す。二、(第一事件につき)東京地方裁判所昭和四八年(ケ)第一四〇号不動産競売事件につき同裁判所が作成した配当表のうち、被控訴人に対する交付額を取り消し、これを控訴人後藤照美に交付する。三、(第二事件につき)被控訴人の請求を棄却する。四、訴訟費用は、第一、第二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。<以下、事実省略>

理由

当裁判所も、第一事件については、控訴人照美の請求のうち、本件建物についての配当表に関する部分は不適法として訴えを却下し、本件土地についての配当表に関する部分は理由なきものとしてこれを棄却すべきものであり、第二事件については、控訴人らに対し各自金一七六九万九四八八円及びこれに対する昭和四二年一二月三一日から支払ずみまで年三割の割合による約定の遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容し、その余は理由なきものとして棄却すべきものであると判断するものであるが、その理由は、次の一ないし九に掲げるほか、原判決理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

一原判決一八枚目裏七行目及び同二〇枚目表六行目の「締結し」の次に、それぞれ「同月二日国際ミクニ交通に対し各所有権移転請求権仮登記及び抵当権設定登記を経由し」を加える。

二同二〇枚目裏一行目冒頭から四行目の「合意をしたこと」までを、「弁済期は貸付日から六〇日後とするが、六〇日ごとに五回まで更新しうるものとすること、及び利息は年一割五分、期限後の損害金は年三割の各割合とすることが合意されたこと(後記のとおり、事実上は貸付時及び弁済期の更新時に右約定利率を超える金員が利息に相当するものとしてあらかじめ徴収されているが、このことは、法的効果意思を伴う約定としては前記のような合意が成立していると認められることと、必ずしも矛盾しない。)、並びに期限内の利息に相当するものとして金一六〇万円が天引きされたこと」と改め、同八行目の「手数料名儀」を「手数料名義」と訂正する。

三<証拠関係省略>

四同末行の「約定の」から同裏一行目の「一か月ずつ」までを、「延長期間内の利息に相当するものとして金八〇万円の金員を支払うことによつて、一〇月末の弁済期を三〇日ずつ」と改める。

五同二三枚目表二行目の「通知したこと」の次に、「、及び本件土地建物について国際ミクニ交通のためになされた前記所有権移転請求権仮登記及び抵当権設定登記につき、同月二〇日付で被控訴人に対する移転の各附記登記が経由されていること」を加え、<証拠関係中略>、同八行目の「譲渡し」の次に「、右三者間の合意により中間省略の方法により前記各附記登記を経由し」を加える。

六同二四枚目表末行の「右の所有権移転登記」から同裏七行目の「存続する」までを、「<証拠>によれば、国際ミクニ交通の提起した右の訴えは、本件債権を担保するため、抵当権の設定と併せて合意され、それを原因とする所有権移転請求権仮登記を経由した、いわゆる仮登記担保権としての代物弁済予約上の権利の実行として、予約完結の意思表示をした上で、被担保債権の満足をはかるため、右債権を明示して仮登記の本登記手続を訴訟上請求したものにほかならず、被控訴人の参加も、本件債権とともに右仮登記担保権を譲り受けて仮登記につき移転の附記登記を経由したことにより、訴訟の目的たる権利を承継した者として、重ねて予約完結の意思表示をした上でなされたものであることが明らかであるから、抵当権に基づく競売申立てが被担保債権の消滅時効の中断事由となるのと同じく、被担保債権自体についての裁判上の請求に準ずるものとして(仮にしからずとしても裁判上の請求を通じてなされた催告として)、本件債権につき、訴えの提起時から(参加人たる被控訴人についてもその時に遡つて)時効中断の効力を生じ、後日右の訴え及び参加申立てが取り下げられても、訴訟の係属中催告が継続していたものとして、時効中断の効力が維持される」と改め、同二五枚目表一行目の「提記」を「提起」と訂正する。

七同二六枚目表七行目の「及び本件土地に対する抵当権」を、「並びに右債権の担保を目的とする本件土地建物に対する抵当権及び代物弁済予約上の権利(仮登記担保権)」と、同九行目の「本件抵当権者として、本件土地」を、「抵当権者ないし仮登記担保権者として、本件土地建物」と、それぞれ改める。

八同二七枚目表六、七行目の「そうすると、」から同二八枚目表七行目末尾までを、次のように改める。

「しかしながら、債権者が金銭債権を担保するため、債務者又は第三者の所有する不動産につき、抵当権の設定のほかに代物弁済予約を結び、所有権移転請求権仮登記を経由して、いわゆる仮登記担保権者となつているときは、右債権者は、目的不動産が他の債権者の申立てにより競売に付された場合、右代物弁済予約の完結をした上で、自己の有する権利が仮登記担保権であること及び被担保債権とその金額を明らかにして競売裁判所に届け出ることにより、その仮登記の順位において、自己の債権の元本、利息、遅延損害金の全額につき、他の債権者に優先して売却代金から配当を受けることができ、仮登記担保契約に関する法律の施行前である本件配当期日当時においては、仮登記担保権者が優先配当を受ける利息、損害金を二年分に限定すべき法律上の理由は存しなかつたところである(最高裁昭和四七年一〇月二六日判決、民集二六巻八号一四六五頁参照)が、被控訴人が本件債権を担保するための仮登記担保権者たる地位にあることは前叙のとおりであり、<証拠>を総合すると、被控訴人は右仮登記担保権の実行のため承継参加した訴訟の係属中、先順位抵当権者である大東京信用組合の申立てに係る競売手続により本件土地建物が競落されたことに伴い、右仮登記担保権も消除されたものとして仮登記が抹消されたため、やむなく右参加申立てを取り下げ、右競売手続上配当を受けることにより仮登記担保権実行の目的を達すべく、競売裁判所に対し、配当期日前に、前記金八五九九万三二〇〇円の債権計算書を、自己の仮登記担保権及びその被担保債権を証する証書とともに提出しているものと認められるから、これをもつて権利の届出の実質を具えたものということができる。そして右各証拠によれば、被控訴人は、最後の二年分以外の遅延損害金及び利息に対する優先配当を否定した本件土地建物売却代金の配当表を不当として、後順位担保権者に対する交付額につき異議を申し立て、自己の債権全額に対する配当を要求して別件配当異議訴訟を提起していることが認められ、本件においても同様に、仮登記担保権者としての優先的地位を主張しているものと解される。

してみれば、前叙のとおり被控訴人の提出した計算書記載の債権額は現実に存在する債権額を上回るとはいえ、被控訴人が計算書に記載した昭和五三年一〇月三一日までの遅延損害金を含む前記現存債権額七五二三万四九四六円の全額につき、右配当表で元本及び最後の二年分の損害金に限つて認められたのと同じ優先順位により、本件土地建物の売却代金が被控訴人に交付されるべき筋合いとなるから、前掲乙第二号証の一、二によつて明らかな本件土地建物の各売却代金の比率による負担割合によつて計算してみても、本件土地の売却代金から被控訴人に交付されるべき配当金の額は金四一三〇万三九八五円となつて、配当表に記載された交付額を上回る(本件建物の売却代金についての配当表の記載は動かないことを前提とすれば、右金額がさらに増加することは計数上明らかである。)。

(ちなみに、被控訴人が抵当権者たる地位において配当を受けることとした場合には、右抵当権の優先順位による被担保債権の元本及び最後の二年分の損害金に対する配当額は、現実の債権額に減額され、その余の損害金債権につき、優先配当後の剰余金から他の担保権者の残存債権額との按分割合により交付を受けるべき金額も、配当表の記載額を下回ること、そして被控訴人には右の按分割合による交付額を超える損害金債権がなお残存することが、前掲乙第二号証の一(本件土地売却代金の配当表)の記載に照らし、計数上明らかであるが、抵当権の被担保債権の範囲を利息、損害金については最後の二年分に限定した民法三七四条の規定は、いわゆる物上保証人に対する関係では適用がなく、抵当権者は、利息、損害金を含む被担保債権の全額につき、競落不動産の売却代金から弁済を受けることができるものと解されるから、物上保証人である控訴人照美としては、本件土地の売却代金を各抵当権者の被担保債権全額の弁済に充ててなお剰余金が生ずる場合に初めてその剰余金の交付を受けることができるのであつて、すでに被控訴人の有する抵当権の被担保債権につき、右のように、本件土地の売却代金によつては全額の満足が得られない計算関係にある以上、控訴人照美に交付すべき剰余金の生ずる余地は存しないものといわなければならず、かように所詮自己に交付されるべき剰余金の生ずる余地のない場合に、なお他の債権者の債権額や配当順位を否定してその取消しを求める利益は、物上保証人には認められないことになるので、結局、控訴人照美の請求を理由なしとする結論に変りはない。)」<以下、省略>

(横山長 浅野正樹 水野武)

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